日本高血圧学会が2025年に発表した「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を解説します。
最新の診療方針、血圧の目標値、評価基準、生活習慣改善の考え方などをわかりやすく説明いたします。
2025年 高血圧管理・治療ガイドライン(JSH2025)とは
2025年8月、日本高血圧学会は約6年ぶりに「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」を発表しました。従来の治療中心のガイドラインから、生活習慣改善・予防・管理を含めたより包括的な内容へと進化しており、名称自体も「高血圧管理・治療ガイドライン」と改められています。
このガイドラインは、高血圧の診断・評価・治療・フォローアップまでの体系を示すもので、次の3部構成で構成されています。
1. 国民の血圧管理(高血圧の疫学・スクリーニング・生活習慣改善)
2. 高血圧患者の管理・治療(診察・測定・薬物治療など)
3. 特殊な病態や二次性高血圧の対応(妊娠中・治療抵抗性・小児など)
診断基準:高血圧はどう診断するでしょうか?
診断基準そのものは大きく変更されていません。
•診察室血圧(医療機関で測定)
上の血圧(収縮期血圧)140mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)90mmHg以上で高血圧と診断されます。
•家庭血圧(自宅で測定)
135/85mmHg以上も高血圧の目安とされ、診察室血圧よりやや低い基準が用いられています。
ただし、診断だけでなくその後のリスク評価や治療介入タイミングについては、生活習慣・合併症・循環器疾患リスクなど総合的に判断することが強調されています。
最重要ポイント:降圧目標値が大きく変わりました。
全年齢で統一した目標
2025年版で最も注目される改訂点は、降圧目標が年齢・合併症の有無にかかわらず“原則として同一の目標値”となったことです。
•診察室血圧の目標値:130/80mmHg未満
•家庭血圧の目標値:125/75mmHg未満
これまで年齢別や合併症別に目標値が細かく区分されていたのに対し、2025年版では「まずは130/80未満を目指す」という方針が基本となりました。特に75歳以上の高齢者に対しても柔軟に対応しつつ、全体の基準が一律化されています。
なぜ血圧は130/80以下を目指すのでしょうか?
近年の臨床研究では、比較的厳格な血圧管理を行うことが心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)のリスク低減に有効であるというエビデンスが蓄積してきました。それに基づき、年齢や性別、合併症の有無にとらわれず、より低めの血圧管理を推奨する方向に舵が切られたと考えられています。
ただし、めまいや低血圧症状、腎機能の低下、虚弱(フレイル)傾向などがある場合は、患者さん毎に目標値を緩やかに調整する個別性も保たれています。
血圧測定の重要性:家庭血圧が中心になります
2025年版ガイドラインでは、家庭血圧測定が診療・治療方針において中心的役割を果たすという新しい考え方が示されました。
•毎日、朝と夜の家庭血圧を測定し、平均値を治療判断に用いることが推奨されています。
•家庭血圧は、診察室の血圧よりも日常の血圧に近く、治療効果や生活習慣改善の評価に優れているとされます。
このように、医療機関だけでなく患者自身が日常的に血圧を管理する姿勢が重要視されるようになりました。
生活習慣改善の位置づけが強化されています。
降圧薬による治療と同じくらい、生活習慣改善が重視されています。ガイドラインでは具体的な介入領域として次のものが挙げられています
1. 食事
• 減塩:1日6g未満(個々の状況によってさらに厳しい目標)
• ナトリウム/カリウム比の改善
• 野菜・果物中心のバランス食
2. 運動
• 有酸素運動(ウォーキング・ジョギングなど)を定期的に行う
• 筋力を維持する運動も補助的に
3. 体重管理
• 適正体重(BMI)の維持
• 過体重・肥満の減量による血圧低下効果
4. 節酒・禁煙
• 節度ある飲酒
• 喫煙は血圧上昇・動脈硬化促進の要因として明確に避ける
このような生活習慣改善は、薬物治療の効果を高めるだけでなく、薬の使用開始を遅らせる・軽症者には薬を使わずに血圧をコントロールすることにもつながります。
薬物治療の方針
薬物治療は、生活習慣改善だけでは目標血圧に到達しない患者や、臓器障害・心血管疾患などおリスクが高い患者さんに対して行われます。
【薬物選択の基本】
使用される薬剤は、以下のような主要な降圧薬です
• ACE阻害薬/ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)
• Ca拮抗薬
• 利尿薬
• β遮断薬(個別性に応じて)
患者の合併症(糖尿病・心疾患・腎症など)や副作用を考慮しつつ、適切な薬剤・組み合わせが選択されます。また、複数剤を1錠にまとめた配合剤を使い、服薬アドヒアランス(継続性)を高める工夫も推奨されています。
リスクの評価と個別治療戦略
高血圧の治療は単なる数値の管理ではなく、患者の将来的な心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中など)のリスクを評価し、そのリスクに応じて治療戦略を立てることが重要です。
多くの国際ガイドライン(AHA/ACC等)では、10年心血管リスクの推定ツールを用いて、生活習慣治療と薬物治療のタイミングを決定する考え方が取り入れられています。
特殊な病態への対応について
・治療抵抗性高血圧
複数の薬剤を使用しても血圧が下がらない場合、原因検索(二次性高血圧の有無)・治療方針の再検討が必要です。
・妊娠中高血圧
妊娠に伴う高血圧は母体と胎児双方にリスクを与えます。薬物の選択や血圧管理基準が通常と異なるため、専門的な管理が必要です。
・高齢者や小児
個別の症状・体力・生活背景に応じて柔軟な目標設定と治療戦略が求められます。
こうした特殊領域の対応もJSH2025には詳述されています。
まとめ:2025年ガイドラインの意義
2025年の高血圧ガイドライン(JSH2025)は、従来の治療中心から生活全体で血圧を管理する時代へと進化したことが最大のポイントです。診断・目標値・治療・生活習慣改善・リスク評価のすべてにおいて、より明確かつ実践的な指針が示されました。
・統一された降圧目標(130/80未満)が設定されたことで、治療方針が明確になりました。
・家庭血圧測定の重視により、日常管理の意識が高まりました。
・生活習慣改善が治療の基盤として強調されました。
・個別性を考慮しつつもエビデンスに基づく治療戦略が求められています。
高血圧は「国民病」とも言われ、日本では多くの人が該当します。
ふくおか内科クリニックでは、これらの考え方を取り入れた上で生活習慣の見直しを行い、日々の血圧測定を推奨して将来の心血管病リスクを減らすために治療を勧めていきたいと考えております。
健診で血圧が高めと言われた方や、自宅での血圧が高めの方、家系的に高血圧が心配な方はぜひご相談いただけますと幸いです。
ふくおか内科クリニック
院長 福岡勇樹